友人の仕事を手伝わない理由

僕の友人で「起業する!」と宣言し、5年勤めた会社を辞めたヤツがいる。友人一同、その心意気を応援していたが、あれから4年という月日が流れた。彼は会うたびに仕事を手伝って欲しいと僕に言うのだが、僕は首を縦に振らない。




友人の仕事を手伝わない理由。


独立当初、彼は自分の事業とは何かを真剣に考えていた。起業を宣言したとき、彼には具体的なビジョンもアイディアもなかった。だから、すごく焦っていた。当時の彼は自分がやるべき事業は何かを必死に模索し、多くの人と出会い、話をすることに注力していた。結果として、人脈は広がり多種多様な人から仕事を“もらっている”。“仕事がもらえる”ことは彼の強みだと思うのだが、その仕事は彼でなければならない理由が一つもない。


彼は言う。「今の働き方は自分の納得したことだけを追求できるからいい」と…。そりゃそうだ。自分の気の合う人の仕事にだけ協力する。やりがいや成果云々の前に仕事はやりやすい。タスクは多いから仕事の達成感も得られるだろう。けれど、端から見ていると金儲けの上手な実業家に都合良く使われているようにしか見えない。そのスタイルで多くの人に影響を与えるビジネスができ、自分の年収も自分で決めれるようになれればいい。けれど、今の彼は食っていくので精一杯だ。あげく、誰に何を吹き込まれたのか、NPOを立ち上げ、補助金で食いつないでいく道を見つけた。志やアイディアを探していた時期は過ぎ去り、自分の食いぶちを楽に得られそうな方向へシフトしていっている。


ビジョンやアイディアがなければ、起業してはいけないわけではない。このような状況から人々の役に立つサービスを確立した起業家はたくさんいる。彼らは今、堂々と自分のビジネスを語る。僕は彼が目覚めるのを待っている。けれど、4年経った今もその気配はない。




僕が求めるたった一つのこと。


僕は友人の仕事を手伝うのが嫌なわけではない。けれど、彼がなぜ起業しようと思ったのか、起業して何をしたいのか、彼が起こすアクションで世の中にどのような社会貢献が行われるのか、その仕事からどんな対価を得たいのか…。こんなストーリーが語られなくては、僕は彼の何にコミットをすればいいのかわからない。目指すべきゴールが明確であれば、それがどんなに遠くとも道は描ける。人が集まって働くということは、ゴールまでの道筋を多角的にデザインすることなんだ。


たった1行の物語でも人は人に影響を与えられる。人に影響を与えられなければ仕事は成り立たない。これは起業家であろうと、サラリーマンであろうと一緒なんだ。


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